『新・コンピュータと教育』佐伯 胖 1997年 岩波書店

 本書が出版されたのは1997年であり、パソコンやインターネットが急速に学校現場に普及され始めた時期です。一方で現在(2018年)はタブレット端末や電子黒板、プログラミングソフトが学校に普及している時期であり、書かれた当時とは状況が大きく異なります。


 そう考えれば、本書のタイトルに「新」と書かれている古い本を、今になって紹介することに違和感を覚える方もいるかもしれないですが、本書の根底にあるコンピュータと教育の関係を問い直そうとする「思想」は、全く古びていません。むしろ、「プログラミング」「AI」「VR」などのテクノロジーが教育現場に入り込んできている今だからこそ、改めて読まれるべき名著だと思います。


 本書では、コンピュータを「使いこなせる」技能の育成、「ついていける」思考力と感覚の養成をはかろうする従来のコンピュータ教育に異を唱えています。このような考え方に対して、認知科学者である筆者は「人間教育からみたコンピュータ教育」という立場をとります。これは、コンピュータに代表されるテクノロジー全体を、教育的視点から見直し、改善し、活かしていくための教育という立場です。つまり、「機械があるから使わなければならない」という発想ではなく、「学ばなければならないこと、学びたいことがあるからこそコンピュータを使う」という発想に立つということです。


   その考え方から、学びを支援する道具のあるべき姿を検討しています。具体的には、「使いやすい道具」の条件(①認知的負荷の最小化、②アフォーダンス特性の活用、③一連の作業の流れへの配慮)や、「人を賢くする道具」の特徴(略図性や思考の外化など)を、これまでのヒューマンインターフェース研究、認知工学、認知科学の研究知見から論を展開していきます。



 個人的には、教育ソフトを分類する際の様々な観点を提供してくれたのが、大変ありがたかったです。道具的特性の視点で分類した場合、内化型・外化型・モデル化型のソフトがあり、それぞれの利点・欠点をあげています。また、学習者像からみた観点では「観客型」(①情報提供型、②練習型、③シミュレーション型)と演出型(①電子文房具、②表現ツール、③シミュレーションソフト、④プログラミング言語)で分類し、さらにこの他にも「外生的動機づけー内生的動機づけ」の観点や、ノーマンの提唱する「体験型モードー内省型モード」などの観点もあげています。学校や家庭にある教育ソフトを、上記の観点を参照しながら自分なりに分類してみても面白いかもしれません。そうすることで、それぞれのソフトの光と影が鮮明に見えてくると思います。


 本書は、新しいテクノロジーを受け入れようとする学校関係者にはもちろんのこと、それらを開発し、ICT機器やソフトを導入しようとする教育産業関係者にも是非手にとって読んでいただきたい一冊です。

(Takuya)