心理学は教育の役に立たないのではないか?という「教育心理学の不毛性」の議論が盛んに行われた時期が過去にありました。教員採用試験では、「教育心理学」が必ずといっていいほど出題されますが、採用試験のテキストに出てくる心理学の知見は古典的なものがほとんどなので、私も学生時代は「これを勉強していったい何になるんだ?」と思ったこともありました。
しかし、現在では、教育現場と積極的に手を結んで研究を行う心理学者もかなり増えており、教育政策の決定においても、認知科学や教育心理学の影響を少なからず受けていると思われます。本書は、認知心理学をベース(根拠)にした学習支援方法が書かれた本であり、上記の教育心理学の不毛性に対する疑念を払拭してくれる本と言えます。
本書は認知心理学の専門書ではなく、教師向けに書かれた本なので大変分かりやすいです。現場で起こる事例をもとに、エビデンスに基づいた解説がなされているので、「それ、あるある!」「あぁ、なるほど、こういうケースは、そういう風に支援すればうまくいきやすいのか」と、自分の教育実践を振り返りながら読むことができます。
また、子どもの思考、子供の視点に立って書かれているため、教師という立場で本書を読むと「子どもたちはこう考えているのか、こういうところにつまづきを感じてしまうのか」と改めて気づくことも多いと思われます。
例えば、板書やワークシートはどのようなレイアウトだと認知的に見えにくくなってしまうのか?、図や表を含めた教材をデザインする際にはどのような点に留意しなければならないのか?、質の高い振り返りのポイントは何か?等々、授業を展開する上での留意点と、具体的な学習支援のツボが明示されています。
子どもが抱えるつまづきは一様ではないため、本書で書かれている「学習支援のツボ」が全ての教室の全ての児童で有効であるとは当然限らないでしょう。しかし、児童にとって「配慮が行き届いた授業」を構成するために、一般的にどのような点に留意すべきなのか、(特に若手の教師にとって)有効な視点を与えてくれる本です。
(Takuya)
0コメント